2009年ハンガリーGPで、ルーベンス・バリチェロ(当時ブラウンGP)のクルマから脱落した部品がすぐ後ろを走っていたフェラーリのフェリペ・マッサのヘルメットを直撃し、マッサが頭蓋骨(すがいこつ)骨折という致命的ともなりかねないけがを負う事故が発生したのを受けて、コクピットを覆うための戦闘機用のキャノピー、または耐熱性、耐衝撃性に強いポリカーボネート素材のスクリーンを適用する案に、F1チームは消極的であることを認めた。
F1統括団体FIA(国際自動車連盟)は先日、F1マシンのタイヤを時速225キロで戦闘機用キャノピーとポリカーボネート素材のスクリーン両方に衝突させる動画を公表し、「科学的な実験に基づく結果をF1の技術チームに提示した」ことがこの動画の中で明らかにされている。
だがF1関係者らは、キャノピー装着についてあまり乗り気ではないようだ。
この新たな安全面の考慮について、1992年に世界チャンピオンを経験し、引退後もF1スポット参戦したネイジェル・マンセルはオーストリアの『ennstal-classic.at』で次のように語っている。
「コクピットに防護が施されたF1マシンなんて、見たいか分からないな。それはF1とは別のものになってしまうだろうね」
また、元F1ドライバーのマルク・スレールもマンセルと同様スクリーン装着には懐疑的だ。
「コクピット内は暑くなってしまうだろうし、そうすれば空調が必要になる。それにKERS(運動エネルギー回生システム)が失敗して蒸気が入ってきてしまったらどうする?」
更に元F1ドライバーのクリスチャン・ダナーも弱点をこう述べている。「ドライバーの視界も、光で反射して悪くなってしまうだろう」
メルセデス・ベンツのモータースポーツ責任者であるノルベルト・ハウグはドイツの『Bild am Sonntag(ビルト・アム・ゾンタック)』に次のように語った。
「われわれは安全性を高めることには常に高い関心を持っている。動画の内容は興味深い実験であるが、一人用のコクピットは何もつける必要はないと思っている」
一方で、メルセデスGPのドライバーであるニコ・ロズベルグは「良いアイデアだと思う。マシンの安全性の向上は前進を意味するよ」と肯定的な意見を述べた。
FIAが公表した衝突実験の動画
FIA Institute Jet Canopy Test from FIA Institute on Vimeo.