小林可夢偉インタビュー 震災やF1日本GPへの想いを語る

2011年09月30日(金)

Q:小林可夢偉選手、日本の現状に対してご自身がどのように感じていらっしゃるかお聞かせください。

小林可夢偉:3月に震災の一報を聞いて以降、状況は悪化する一方でした。けれど、これまでの復興は驚くほどのものだと僕は思います。それは日本が国外から多くの支援を受けたおかげでもありますし、日本の人たちには強さがあって、互いに助け合ってきたからでもあります。もちろん、まだ(完全な復興へは)長い道のりが残されていますが、復興のスピードには目を見張るものがあります。

Q:F1が鈴鹿で開催されることは日本にとって、ひいては日本の人々にとっていいことだと思いますか?

可夢偉:本当にそのとおりだと思います。グランプリは日本ではとても大きなイベントなので、人々にとっても国にとっても、すごくいいことですし、(日本で)レースを開催していることを国際的に周知できるのもいいことだと思います。みんな元気になれますし、日本人はF1を心から楽しんでいるんですよ。日本を悲劇が襲いましたが、過去数年と同じように僕たちは鈴鹿でレースをするんです。

Q:3月11日の地震と津波の一報が入った際のお気持ちを聞かせていただけますか?

可夢偉:僕はあの日、バルセロナで新しいクルマをテストしていました。シーズン前テストの最終日で、最終日は僕が走行を担当する日だったんです。あの日の朝、最初にニュースを聞いたときはそれほどひどい状況には思いませんでした。けれど、時間がたつごとに状況が悪化していったんです。僕たちが耳にしたことのすべてが実際に起こったことだなんて、簡単に信じられませんでしたし、テストやレースのシミュレーションに集中するのは容易ではありませんでした。

可夢偉:チェルノブイリでの原発事故のことも思い出しましたね。日本のように小さな国であのようなことが起こってしまったので、この先、母国に帰れるのかも不安に思いました。この考えが当たらなくてよかったです。楽な時間ではありませんでしたよ。すごく感情が高ぶってしまいました。

Q:震災発生後、どのくらいの頻度で日本へ帰国していますか?

可夢偉:よく帰っていますよ。バルセロナでのテストが終わった後も東京に直行しました。

Q:復興に向けた支援活動について教えてください。

可夢偉:そうですね、何が大事かというと、国際的な支援の輪も、その指揮を執っている機関もたくさんあるんですよね。個人的には、皆さんが小額の募金ができる機会を作りたいと思いました。

可夢偉:それが形になったのが全F1ドライバーとチーム代表からのメッセージと写真を集めたiPhoneとiPad向けアプリ『You are connected』です。0.79ユーロ(現在、日本では85円)で購入できるので、最初の2ヶ月で世界49カ国から1万ダウンロードを頂きました。ひとつひとつの金額は小さいのですが、助けになりたいと感じた人がそれを実行する機会があったということが重要だと僕は思うんです。

可夢偉:全F1ドライバーと全チーム代表が日本の人たちとのつながりを示せたのも良かった。価格は安いのですが、例えばこのアプリを10ユーロで販売しても、そんなには出せないという人がたくさんいると思うんです。でも、1ユーロならもっとたくさんの人が購入することができるんですよ。

可夢偉:でも実は、結局のところ国を救う責任を背負っているのは政府だと思うんですよね。日本GPの週末に僕は60名の方を招待しました。MJCアンサンブル、という少女合唱団のメンバーと家族の方々なんですが、活動地域が被災してしまったんです。皆さんは福島県南相馬市から鈴鹿に来て、レース前に国歌を歌ってくれます。僕は皆さんの移動バス、宿泊先のホテル、レースチケットを手配しましたので、楽しい時間を過ごしていただけたらうれしいです。

可夢偉:観光庁の観光大使になって1年以上がたつんですが、観光大使として、東京でたくさんの会議に出ていて、他のプロジェクトについても何かの助けになれればと思います。実際のところ、日本のメーカーが完全にF1から撤退してしまっているために、僕の状況は難しいものになりました。もし日本の自動車会社がまだ参戦していたら、(支援の旗振り役が)これほど僕に集中することはなかったでしょうね。

Q:昨年、主催者と特別な約束をしたと伺いましたが、詳細を教えていただけますか。

小林可夢偉:そうなんです、震災の前に決めていたことだったんですが。2011年日本GP開催前に僕が獲得した1ポイントごとに1組の親子ペアを2011年の鈴鹿でのレースに招待する、というものなんです。なんと6,000通もの応募を頂いたんですよ。1ポイントとるごとに、ポイント数に応じてランダムに手紙を選んできたので、27ペアを選んだことになりますね。

可夢偉:けれど、かなりたくさんの応募を頂いたこともあってさらに10家族を追加することにしたので合計37家族の皆さんに鈴鹿でのレースを楽しんで頂きます。

Q:ここまでの2011年シーズンを振り返って、いかがですか?

可夢偉:昨年より競争力が増したことは間違いありません。メルボルンでの開幕戦(オーストラリアGP)は素晴らしい形で(シーズンの)スタートを切れましたし、そのあともとても競争力の高いレースがいくつもありました。僕自身のハイライトはモナコとモントリオール(カナダGP)ですね。

可夢偉:けれど、厳しいレースもありました。メルボルンでは結局失格になってしまって10ポイントを剥奪(はくだつ)されてしまいましたし(注:決勝レース終了後、クルマに技術規定違反があったとしてザウバーの2台が失格処分を受けた)、トルコとバルセロナ(スペインGP)ではタイヤがパンクしました。シルバーストン(イギリスGP)と先日のモンツァ(イタリアGP)ではギアボックスのトラブルにも見舞われました。

可夢偉:しかも、シーズン中の改良がなかなか期待通りの進化につながっていかない部分もあります。これまでのところは、いいところも悪いところもあって浮き沈みのあるシーズンですが、まだ終わったわけじゃありませんから。

Q:昨年の鈴鹿では土曜日に激しい雨が降ったため、日曜日の数時間で予選と決勝を終えるというスケジュールになりました。あのときのことを教えてください。

可夢偉:僕たちにとっての挑戦だったのは、予選と決勝を同じ日にやることでした。でも、ファンの皆さんにとってはたくさん見るものがあってよかったと思いますし、土曜日にさんざんな目に遭った皆さんには日曜日を楽しむ権利があったと思いますよ。雨が降る中で6時間、あるいは7時間もグランドスタンドで辛抱強く待っていてくれたんですから。日曜日に太陽が顔を出したときはほっとしました。

可夢偉:いい結果を出せただけでなくいいショーを見せることもできましたし。実は、鈴鹿ってお客さんよりもドライバーにとって興奮できるものなんじゃないかって思ってるんです。高い技術が要求されますからね。去年の日曜日は興奮するようなことがたくさんありました。でも、だからといって去年みたいな雨はもうゴメンですね。

Q:母国GPは楽しめそうですか?

可夢偉:母国に帰ってレースをするのは誇らしいですよ、それは間違いないです。うれしいのと同時に、プレッシャーもありますが。もしもカレンダーから鈴鹿が消えたら残念に思うドライバーはたくさんいると思います。このサーキットはすごく人気が高くて、多くのドライバーは東京も気に入ってくれています。だって、いろんな人がどこで何をしたら遊べるかを僕に聞いてくるんですよ。

Q:最後に、今年の日本GPの目標は?

可夢偉:去年は日本GPの結果が2010年のベストリザルトだったんです。当時チームメートだったニック・ハイドフェルドが8位で、僕が7位。それまで僕は鈴鹿での経験があまりなくて、しかも新人F1ドライバーでした。だから、今年はもっといい結果を残したいですね。

可夢偉:ファンのためにも、好天に恵まれることを望みます。DRS(空気抵抗低減システム/可変リアウイング)とKERS(運動エネルギー回生システム)はショーをうまく演出してくれると思いますね。しかも、ドライバーズ選手権の行方を決めるにも完ぺきな場所ですから。

可夢偉:見事なレースコースですし、カラオケパーティーはもはや伝説です。それに、(鈴鹿でチャンピオンが決まれば)日本の皆さんを元気づけることができるんじゃないですかね。

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